幻想郷のとある貸本屋。
今日も今日とて、店番をしていた本居小鈴は1冊の本を訝しげに眺めていた。
不思議な力を持つ妖魔本に精通している彼女でも、見たことのないような一品だった。
周りに誰もいない事を確かめ、表紙を指で撫でる。
「ぶっく…BOOKING?
とりあえず読んでみようかしら」
よいしょ、と椅子に腰を掛け、本を開く小鈴。
これが幻想郷全てを巻き込む異変の始まりとも知らずに。
ところ変わって、妖怪の山。
鴉天狗の射命丸文の手元には、相も変わらず捏造記事が拡げられていた。
「う〜ん、イマイチ体験談じゃないからパッとしない記事になっちゃいますねぇ」
つい先日、妖怪の山に核爆発を起こした事など棚に上げ、
何かもっと面白い異変が起こらないかと、首を捻る文。
そんな中、彼女の部下である白狼天狗の犬走椛が部屋に駆け込んできた。
「ちょっと文さん!捏造新聞ばかり書いてないで本業をして下さいよ!」
先日の異変の重要参考人であるキスメを片手に、文に詰め寄る椛だが、
――その瞬間。
カッッ!!
幻想郷全域に轟くような、とてつもない光が彼女たちを包み込んだ。
「な、何の光ですか!?」
「あの方角は、人里でしょうか。
ふむ……ネタの臭いがプンプンしますねぇ。よし、行きますよ椛!」
制止する椛を無視しつつ、文花帖とペンを懐に飛び立つ文。
やれやれ、とため息をつきながら椛はそれに続いた。ついでにキスメも。
「あ……あぁ……
こんなとんでもない妖魔本があっただなんて……」
貸本屋『鈴奈庵』で腰を抜かした小鈴の目の前には、先ほどの妖魔本が宙に浮かんでいた。
そのとてつもない魔力に、好奇心が旺盛で危機感の無い彼女ですら唾を飲む。
小鈴がその場を収めるべく、慎重に行動をとろうとした矢先――
本を手をかざすことで読むことができる能力で、小鈴は知っていた。
その本を開くべきではないと。完全に開けば、幻想郷と本の世界が繋がってしまう事を。
しかし、次に小鈴が見たのは、引きつった笑顔でこちらを振り返る文だった。
そしてその手元には、完全に開かれた妖魔本。
「すいません、もう開いちゃいましたけど」
「うわあぁあぁあぁああーーっ!」
本の中へと吸い込まれる一同。
果たして彼女達は無事幻想郷に帰還することができるのか……!?