それは、よく晴れた夏の日のことだった。
神社から抜けだし人里で遊んでいた霊夢は、
突然の大雨に見舞われ、雨に打たれながらも帰路をいそいでいた。
雨が止む気配はなく、勢いは増していくばかり。
これ以上は身が持たないと思った霊夢は、雨宿りをするべく、
帰り道の途中にあった香霖堂へと駆けこんだ。
「いらっしゃい、ようこそ香霖堂へ!……って、なんだ霊夢じゃないか」
愛想よくあいさつをして入口に視線を移す霖之助だったが、
相手の姿を確認したとたん――その表情があからさまにくもっていく。
「なんだってなによ。私だって、れっきとしたお客さんよ?」
反射的に言い返しはするものの、今までにお金を払って商品を購入したことはないし、
これからもその予定はないようだ。
正直、お客と呼んでいいかは微妙なところである。
外の雨は、一向に止む気配がない。
適当な商品を見つけては霖之助に質問をして時間をつぶす霊夢だったが、
あるとき、彼の手元にある金色に輝く玉の存在に気づく。
その玉の名は、ゴールドスフィア――思わず手にしたくなる、不思議な魅力を秘めた宝石だ。
霊夢は無意識にゴールドスフィアへふれようとするが、霖之助はそれを良しとしなかった。
ムッとして、意地でもさわろうとする霊夢と、それに抵抗する霖之助。
霊夢の指がゴールドスフィアにふれた瞬間――“それ”は起こった。
激しい雷鳴と閃光。はじけ飛び、床へと転がるゴールドスフィア。
あわてて拾い上げようとする霖之助だったが、
突如、玉から放たれた光に全身を飲みこまれてしまう。
それは香霖堂のはるか上空まで放たれ、暗雲さえも吹き飛ばしてしまうほどの強烈な光だった。
窓から差しこむ強い日差しに、目を細めながら店内を見回す霊夢。
「……霖之助さん?」
彼女の視線の先には、ゴールドスフィアから放たれる禍々しい光を全身にあびながら、
不敵な笑みを浮かべる霖之助の姿があった。
「あぁ、大丈夫さ……。問題ないよ……霊夢」
その言葉とともに霊夢へと向けられる、あきらかな敵意。
その日――幻想郷にふたたび“新たな異変”が舞い降りた。